第1講 医療法人制度とは?

「個人医院」として開業された先生方は、ある程度の収益や経営基盤が安定してくると「法人化」を検 討される先生が多いと思われます。

平成18年12月第五次医療法改正で医療法人制度は抜本的な見直しが行われました。医療法における 医療法人の位置付けは、「医療を提供する体制の確保を図り、もって国民の健康の保持に寄与することを目的としたものであり、運営の透明性の確保、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならない」とされており、営利を目的として病院又は診療所を開設し てはならないことを強く求めています。

医療法人には営利目的の否定「剰余金の配当禁止(医療法第54条)」に関する規定が盛り込まれていま す。法改正以前も「剰余金の配当禁止」に関する規定は存在していましたが、❶社員が退社した際には、出資持分に応じて払戻しが可能 ❷MS法人を通じて利益移転することも可能 ❸同族役員が自由に 様々な手段を用いて実質的に配当を行っている などの実態があり、医療法人の非営利性が明確で、 かつ透明性を持たせるための改正に踏み切ったわけです。

 

医療法人制度改正の要点

 

昭和60年に一人医師医療法人制度が創設され、現在では全国に約45,000の一人医師医療法人が存在します。制度創設時には、診療所でも経営基盤の安定が必要とされ法人化を認可してきた経緯にありますが、ただ単に税体系の恩恵を得られることを目的として設立されてきたことも事実と認識しなければなりません。「法人化は不利益?」と考えていらっしゃる先生方も多いように感じています。 しかし、「医療法人化の目的」を改めて認識できるチャンスではないでしょうか。

現在、医療法人は ❶医療法人の本来業務 ❷付随業務及び ❸附帯業務に関する事業領域が大幅に拡 大してきています。(法人組織でなければ経営できない事業) 地域医療や介護・福祉に貢献する意味においても、「法人化」は必要不可欠な選択肢となるはずですの で、法人化のポイントについて検証してみましょう。

 

1.「剰余金の配当禁止(医療法第54条)」に関連付ける改正

❶新規設立時には、「出資持分を有しない」こと。(出資から拠出へ変更)
・設立時には出資持分を有しないため、解散時にも出資財産権は存在しないことを意味します。

❷解散時の残余財産の帰属すべき者の限定(国、市町村、一定の医療法人等に限定)

❸基金制度(基金拠出型)の採用   
・設立時の拠出に対する「財産権」を認めない代わりに、「基金型拠出」を制度化し、基金の範囲内で「財産権を認める」ことを基金制度として採用しています。

 

2.医業経営の透明性確保と附帯業務の拡大

❶本来業務の他、介護保険事業や社会福祉事業の実施可能範囲を拡大

❷役員及び社員総会等の機能明確化と役員の責務に関する規定が明文化

❸事業報告書等の作成及び閲覧に供することの規定整備

❹設立時の資産用件として、「運転資金2ヶ月分」の準備要件が加わる

 

※医業経営において附帯業務が拡大することにより、地域医療や介護・福祉分野への貢献が可能となり、多種多様な経営を行うことができるようになりました。

また、役員の責務明確化の中に特に「監事」に対する職務要件が明記され、「監事の職務は、医療法人の業務監視と財産状況の監視」と規定されました。就任要件も、当然これらを実施できる方でないと就任できないことになります。

ポイントとして、「事業報告書等を閲覧に供すること」が追加されました。医療経営の透明性を図る上で「情報開示」は重要な位置づけとなります。

閲覧に関しては、医療法人(閲覧可能者は限定)と行政当局(誰でも閲覧可能)で対象者が異なる点に注意して下さい。

 

第2講 医療法人の税体系や税制度

1.事業所得に対する税金の体系

個人の場合、事業所得に対する税金は❶所得税(国)❷住民税(都道府県市町村)❸事業税(都道府県)の3種類です。医療法人は❶法人税(国)❷法人住民税(都道府県市町村)❸法人事業税(都道府県)と同じ3種類になります。
しかし、税率や所得金額の区分の違いに大きな特徴があります。

※事業税は、個人事業5%・医療法人5%~6.6%ですが、社会保険診療報酬に関する収益は非課税であることと、税務上は必要経費として損金経理できる点で多少異なる為、上記税率には含めておりません。
個人経営と医療法人経営では、同じ収支状況でも経営主体が違うだけで、税務面での取扱いが大きく異なります。

 

2.所得の区分について

個人事業では、医業所得のほか給与収入や株式売買・配当金受領、不動産の貸付や不動産の売買など各取引や所得の種類によって10の所得に分類し、総合課税方式(全体を取りまとめて計算)や分離課税(その一取引のみの計算)で納税額の計算を行うのに対して、医療法人は、法人が行う全ての取引を一括して法人所得の計算上収支計算を行うものとしています。

個人では分離課税で赤字切捨てとなる取引でも、医療法人では全体で損益通算することが可能となる場合もあるため、税務的にも有利となる場合があります。

 

3.税制度の相違点

❶欠損金の繰越期間(個人3年・法人9年)、❷減価償却費の計上(個人強制・法人任意)、❸会計年度の設定(個人1月~12月・法人は原則自由設定)、❹社会保険診療の源泉所得税(個人あり・法人なし)、❺親族の給与設定(個人・原則専従者のみ、法人・役員全員)など、取扱いには大きな相違点が多数存在します。

先ず、医療法人化の検討の際には、制度自体を勉強することも必要ですが、当医院が法人化した場合、経営収支や財産の区分がどのように行われ、どのように運営するか?も検討が必要となりますので、専門家(税理士等)にご相談しながら進められることをご提案します。

 

第3講 医療法人の「費用取扱い」

医療法人化後、経費(費用)の取扱いはどうなりますか?というご質問が多く寄せられます。

それらの多くは❶個人経営時代と何ら変わりないものと、❷医療法人だから必要経費に算入することが可能なもの、❸税額計算上は所得(益金)として扱われる「算入限度額の計算」などが存在しています。

 

1.医療法人だから必要経費に算入することが可能な費用

❶役員に対する報酬(給与)

個人経営時代は、事業主に対する給与等(生活費)は必要経費に算入することはできませんでした。それは事業主体と個人が同一であるため税務取扱上は税引後の所得から生活費を捻出するイメージでした。

法人化後は、決定した一定金額を毎月役員報酬(給与)として取ることができます。

個人に対する納税は、「給与所得控除」を差引きするなどして計算された所得税等を納付することになります。 (親族役員に対しても業務に応じた報酬を支払うこともできます)

 

❷役員等の退職金支給

法人の場合、理事長等がその役職を退任する場合や廃業する場合、若しくは死亡した場合には、役員退職金等(死亡退職金)を支給することができます。

それらの退職金等は、個人の所得(みなし相続財産)となりますが、税務上の取扱いは所得控除など優遇した税制になっています。

 

❸出張時の「日当」支給が可能

法人の場合、一定距離以上の出張や宿泊が必要な場合、宿泊費の他「日当」を支払うことが可能です。(個人事業の場合は、直接必要とした経費のみ)

但し、「旅費規程を作成していること」や「著しく高額でないこと」「出張指示書や旅費精算書を具備する」などの要件もありますので注意が必要です。

 

❹一定契約の生命保険料支払時の必要経費算入

個人事業の場合、個人契約している生命保険料は一切必要経費に算入することができません。(所得控除において最高80,000円のみ 個人年金含む)

法人の場合は、掛け捨て(満期返戻金が無)契約のものや、職員等を被保険者として同時加入するような場合、一定の要件のもと必要経費に算入することが可能となる契約が多数あります。

経営上必要なリスク補填や個人で必要なリスク補填のための保険契約見直しが可能となります。

 

❺ゴルフクラブの年会費等

法人で購入したゴルフ会員権の年会費等は、法人の必要経費に算入することができます。

個人事業の場合、個人で所有している会員権の年会費は、必要経費に算入することができませんでした。 医療法人化後は、個人会員権を医療法人に売却することも一つの提案となります。(名義変更料やその後の利用料なども勘案して下さい。)

 

第4講 医療法人の「費用取扱い」 No2

会計処理上は経費(費用)として取扱いますが、税額計算上は一部所得と認識しなければならない「損金算入限度額計算」の項目について説明します。

 

1.接待費・交際費

高度成長期に、会社の接待費を使用して飲食・遊興を行う社用族が社会の風潮となりましたが、「冗費を節約して企業の自己資本を充実し企業体質の強化を図る」という政策的見地から、昭和57年4月以降、原則としてその全額が損金に算入されないこととなりました。

しかし、中小企業等においては納税負担の増加が経営に及ぼす影響が大きいことや、日本経済を支える中小企業等の経営力強化の観点から、一定規模以下(資本金等)の法人等については定額控除限度以下の損金処理(所得加算をしない)を認めることとなりました。

※取扱いの詳細に関しては、弊社「無料相談」へお問合せ下さい。

 

2.寄付金

法人が支出した「寄付金」は、寄附の相手方によって大きく3つに区分することとなります。

❶特定寄付金(国・地方公共団体に対するもの)    全額損金扱いとなる

❷特定公益増進法人等(公益法人等や特定団体でその認定を受けているもの)      
【損金算入限度額】 所得金額×5%もしくは資本金等の額×0.25%の和の1/2

❸その他の寄付金(上記以外のもの)      
【損金算入限度額】 所得金額×2.5%もしくは資本金等の額×0.25%の和の1/2

 

3.「家事共通の関連費用」

個人開業時代にも、当然のことながら事業遂行上必要な費用と自宅関連費用(家事費等)については、明確な区分がない限り原則必要経費と認められないこととされていました。

医療法人と個人経営とでは、税法解釈に大きな相違があります。

 

①個人経営~原則、家事上の経費及び家事上の経費に関連する経費は必要経費に算入することができません。(所得税法45①一)
但し、業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができる場合には、その必要である部分に相当する金額を必要経費に算入することができます。(令96、基通45-1、2)

②医療法人~その目的物の所有権者によって取扱いが異なります。
(例) 自宅兼診療所を院長が所有する場合と医療法人が所有する場合

 

■家事関連費用(共通費)となる場合の項目

 

■家事関連費用(共通費)の按分方法

厳密には、数量や料金の区分が明確であればそれに従いますが、ほとんどの場合その点は曖昧です。 その為、具体的な「基準」をもって按分することが求められます。

しかし、具体的な「基準」の定義も曖昧であるため、家族構成やグレード・大きさなどを一般家庭と比較して、それぞれの料金算定の根拠にするしか方法はありません。

※申告の際には、顧問税理士と「家事関連費用(共通費)」の項目と按分根拠(金額算定)についてよく話し合った上で取扱いましょう。

 

第5講 社会保障保険上の相違点

医療法人化した後の「社会保障制度上の相違点」について解説します。 ここで言うところの社会保障制度とは、健康保険制度や公的年金制度を意味しますので、くれぐれも誤解のないようご注意下さい。

 

■健康保険制度について

Q 個人開業の先生方(ご家族)は、医師国民健康保険(医師国保)に加入していますが、医療法人化後、健康保険はどのように取り扱われますか?また、従業員の健康保険はどのようになりますか?

A 医師(組合員)及び組合員の家族(同一世帯員で75歳未満)は、「健康保険被保険者適用除外承認申請」を提出することで、引続き医師国保に継続加入することができます。

従業員については、原則個人経営でも常時5人以上の従業員を使用する事業所(医療保険業も同じ)は、従業員に対し政府管掌健康保険(社会保険)への加入が義務付けられています。

医療法人の場合は、従業員数に関係なく強制加入適用の事業所となっています。

個人経営時代に従業員も医師国民健康保険に加入していた場合、准組合員(従業員等)は、医療法人化後は、政府管掌健康保険(社会保険)へ加入しなければなりません。

 

■公的年金制度について

Q 個人開業中は国民年金に加入していますが、法人化後はどう変わりますか?また、従業員も各自国民年金に加入していますが、法人化後はどうなりますか?

A まず、医療法人は従業員数に関係なく社会保険の強制加入適用の事業所となっていますので、政府管掌健康保険と合わせ「厚生年金」へ移行しなければなりません。

医療法人化後、一定の給与(報酬)を得ることになる親族関係者(配偶者等)も厚生年金へ加入する必要があります。

親族関係者(配偶者等)の給与(報酬)金額によっては、先生(理事長)の扶養者として厚生年金には加入せず、「第三号被保険者」の届出を行い基礎年金(国民年金)部分の加入のみで良い場合もありますので、社会保険労務士又は税理士にご相談下さい。

 

Q 現在、国民年金基金制度に加入していますが、法人化後はどうなりますか?

A 法人化後、厚生年金へ移行した場合は継続加入ができなくなります。しかし契約解除することなく、掛金・納付期間に応じて、将来の年金又は遺族一時金として支払われます。

 

■小規模企業共済制度について

Q 現在加入している小規模企業共済は、法人化後も継続加入できますか?

A 法人化後も継続加入が原則できます。

対象は、従業員20人以下の個人事業主と会社役員(法人役員)ですので、この基準内であれば、 加入対象となります。

また、共済金を受給する場合の取扱いで、個人事業主と法人役員とで若干の相違点がありますのでご確認下さい。

 

第6講 医療法人の設立要件や申請手続きについて

■医療法人設立の流れ

①申請受付(北海道)

医療法人設立認可申請は年2回のみの受付となっています。ホームページで「医療法人認可申請の流れ」を公開しておりますので、法人成りのタイミングをご検討下さい。

 

②保険医療機関指定申請

個人医院や法人成り後の開設許可申請(保健所)後、北海道厚生局宛に「保険医療機関指定申請」を行います。毎月20日までに申請されたものが翌月1日付で承認されます。

 

③開設届提出後に忘れてはいけないもの・・・

法人開設(業務開始)後に市町村事務手数料や健診手数料・保険審査手数料などの振込指定口座変更を失念するケースが目立ちます。

医療機関名を医療法人で申請してしまうと、口座名義不一致で入金されない場合もありますので、医療機関コードを取得後速やかに手続するよう注意しましょう。

 

■医療法人の設立要件での注意ポイント

①人的要件(社員・理事・監事)の選任

原則は、社員3名以上、理事3名以上、監事1名以上の組織を確保できること。

※(北海道の取扱)診療所1ヶ所のみを開設する場合は、理事2名以上で可。医療法上は、都道府県知事が認可した場合、1名以上でも開設可能としていますが、現実に1名では法人運営ができないことから、北海道のローカルルールとして、理事2名以上としています。

 

②資産要件(医療法第41条)

医療機関として必要な医療用器械備品、電話加入権等の資産を有していること。

診療所は原則法人所有が望ましいが、賃貸借契約の場合は長期契約(10年以上)が確実であること。

運転資金基準として、2ヶ月以上の運転資金があること。 など

 

 

以上整理してみましたが、最終的に医療法人化を検討する場合、現在の経営財産・負債をどのよう に引継ぐか?がポイントとなります。

お気軽にご相談下さい。

 

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